【アボカド栽培37】環状剥皮の光と闇
この記事のポイント
  • 開花を促す環状剥皮はデメリットもある!
  • 時期や処理のやり方,適した品種,気候などにも理由が!
  • いろんな各国のやり方も!

けんゆー

ハイサーイ!


けんゆー

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こんにちは.けんゆー(@kenyu0501_)です.

環状剥皮は開花を促すと言われています.
確かに花の咲き,そして果実の付きは向上しますが,The Avocadoで報告されてるいくつかの研究論文を見てみると,メリットだけではなく,そこには気をつけなければならないことも多くあります.

今日はそんなお話です.

アボカドの木の環状剥皮(Girdling)について

第12章 p.367~「Girdling(Scoring, Cincturing, Ringing)」より.

環状剥皮は,開花と結実を促すことが目的です.
一時的に栄養成長を止め,生殖成長の方により多くのエネルギを活用します.
(栄養成長とは,自身の体を大きくする成長で,茎や葉,根などを作ります.花は咲かない.)
(生殖成長とは,子孫を残すための成長で,花芽や花粉形成,受精などに力を入れる成長.)

園芸樹木の処置として,かつてより行われてきた方法で,常識的にされる手法です.

環状剥皮では,外側の樹皮を環状型(輪状)に取り除く技術のことです.
枝や幹の師部(篩部)という箇所を取り除き,形成層と木部は無事です.

師部は光合成によって生成された有機化合物を運ぶので,環状剥皮でここを取り除くと,有機物の流れが止まり,その分,枝先の果実や花に養分が流れます.
これが果実つきがよくなる理屈です.

また,環状剥皮と同様な狙いで,損傷の少ないスカーリングなどもあります.

環状剥皮が正常に行われると,剥皮部は徐々にカルス組織が発達し,最終的には治癒します.
そして,数日後には,生理的機能を回復させます.

切開の幅は,果実の結果タイミングや求める量,そして木の状態などによります.
環状剥皮は,樹木・果樹栽培に広く応用されていますが,樹木の反応をきちんと観察して,彼らの振る舞いを理解する必要があります.(期待できる効果が少ない場合もあります.)

アボカド栽培において,環状剥皮は多くの歴史があります.
この技術は,1960年代,1970年代のイスラエルでは常識的なものでしたが,その後は支持されなくなりました.
近年はチリの高密度に植栽されたいくつかの果樹園では,積極的に行われます.
チリでは,樹立の初期費用が高いため,それを返済するための早熟性が最も重要な指針であり,環状剥皮が行われます.また高密度に植栽されているため,樹木のサイズが厳しく制限されているというのも大きな要因です.

樹木の生理学的影響,主にデメリットについて!

環状剥皮によるデメリットを先に挙げます.

・葉の黄変,白化.
・開花中の落葉.
・種無し果実の増加.
・果実がない場合の光合成能力の低下.
・根の生育が悪くなる.
・フィトフトラ根腐れにやられやすくなる.

以下は,生理学的影響の話から.

環状剥皮の生理学的影響は,2004年にGoren氏によってまとめられました.
この手順の主な効果は,光合成によって生成された炭水化物(有機物)や植物ホルモンのオーキシンなどの師部輸送が中断されることです.

これによって処理された枝の早期開花が行われる一方で,葉の黄変などの視覚的変化も観察できます.これは木がうけたストレスレベルによります.

イスラエルの5つのアボカド栽培品種を用いた研究では,「ハス」の木で特に葉の黄変が観察されております.しかし,オーストラリア(湿潤亜熱帯)の「フエルテ」の木では,観察されませんでした.

イスラエルの開花速度を調査する研究では,環状剥皮を施すと,開花が2ヶ月以上も早くなることが確認されました.この処理は秋にやる必要があり,冬になり処理をしても効果はかなり小さくなりました.

しかし,「ナバル」という栽培品種においては,開花中の落葉がひどいことが報告されてます.

またいくつかの研究では,収穫時の種無し果実の数が増加したと報告してます.
これらの果実は,マンゴーでもみられるような胚が成長していない小さいミニマンゴーのような果実です.言い換えると,環状剥皮は,種無しの単為結果フルーツを増やす可能性があります.

正しく環状剥皮された幹や枝では,木部を介した上向きの輸送(水,ミネラル,溶質,その他の代謝物)には影響がありません.根から葉までは通常通りに運ばれます.環状剥皮をした部分より上側には,光合成による炭水化物およびオーキシン濃度の増加を報告する多くの研究があります.また,環状剥皮をした木の根から樹幹へのサイトカイニンの供給は減るということが知られています.(おそらくこれが種無しにも影響していると考えられる.)

1936年に,Ticho氏は,環状剥皮がされたアボカドの木の根のデンプン濃度が減少していることを発見しました(8%の低下).加えて,剥皮部分の上側の部分は,デンプン濃度が高いことを報告してます.その後,1977年にTomer氏が「フェルテ」の木で同様な研究を行い,同様な結果を得てます.環状剥皮の木における炭水化物(特にデンプン)の蓄積が多いことを発見してます.

木の上に炭水化物が蓄積すると,環状剥皮における幅次第では問題になる場合があります.
木の上にフルーツがない場合,炭水化物が使われなくなるので,光合成の能力は低下します.環状剥皮の木,根は飢餓が起こったり,生き生きしなくなる可能性があります.
これらの影響は,より狭い環状剥皮によって回避することができます.
(幅が大事です.1cm以下でも良いです.)

活力のない樹木,特にフィトフトラの根腐れに感染した樹木の環状剥皮は逆効果であり,深刻な有害な結果をもたらすことが報告されてます.

また,イスラエルのLahav氏は,1971年に,環状剥皮により,葉の白化が処理最大2年間続いたことを報告しました.「エッティンガー」における樹木の窒素,カルシウム,マグネシウム,マンガンの濃度低下も同時に報告しました.また,1977年にTomer氏らは,葉のミネラル含有量(窒素,リン,カリウム,カルシウム)が同じ木の未処理の枝と比較して,抑制されていることを報告してます(ただし,硬化した枝で観察されてました).

寒くて乾燥した冬などは,環状剥皮をした枝は,光合成阻害や光酸化を受けやすい可能性があり,葉の黄変はがよく生じると報告されてます.

つまり,デメリットも多数確認されているため,環状剥皮は慎重に!

メリットも!環状剥皮によって収量を増やす!

メリットも先に記載しておきます.

・時期とやり方を守れば収量が増加する.
・一回り小さい果実ができる(販売上有利).
・隔年結果を改善できる.
・スカーリングだと収量の増加が!

では,以下本文の内容をどうぞ!

一方で,最近の研究では,アボカドの木に環状剥皮を行い,開花や結実を増やしたり,果実のサイズを大きくしたりするという研究報告があります.

環状剥皮に関するもっとも古い報告は1921年,カリフォルニアのCoit氏の報告です.
その後,有益な結果を示すことができない時期が続き,1930年代に,カリフォルニアの慣行栽培では環状剥皮が中止されました.

その後,アボカドの環状剥皮は,1960年代のイスラエルの研究において支持されるようになり,同時に,アボカド栽培でも一貫した利益を示しました.
当時のイスラエルの研究結果では,3年連続でアボカドの木の環状剥皮を行うと,生産量が4.4~11.4トンの範囲で増加したと報告されておます.

そしてもっとも効果的な時期は秋で,環状剥皮の幅は10~20mm程度でした.

1971年には,Lahav氏が環状剥皮により平均果実サイズが減少することを発見しました.
これは,エッティンガーやフェルテなどの大きなサイズの栽培品種にとっては,マーケティング上,有利に働きました.大きすぎる果実はコスパが悪いのです.

しかし,環状剥皮は「ハス」の過剰生産につながり,それに関連してサイズの小さい果実の数が増加し,実験条件下では,「ハス」種には適切ではないと結論づけられました.環状剥皮を行うと,結実する個数は増えますが,そのせいで,養分の競争も激化し,成熟が遅れるということも報告されてます.

その後,1996年にカリフォルニアのFrancis氏は環状剥皮による「ハス」の木は,果実の収量を大幅に改善したと報告しました.本研究では,環状剥皮を秋,冬,春に施用して,どちらも終了が向上しましたが,冬の環状剥皮で収量の増加が報告されてます.サイズに対しての言及は無いです.

イスラエルの研究では,年間に,一本の木に対して,1/2もしくは1/3の枝の環状剥皮が推奨されております.これまでは3年連続で行っても大丈夫だという認識でしたが,イスラエルでは,2年連続して行うことはさけ,処置する枝を毎回ローテーションして実施しているとのことです.現在のところ,これが,生産量が少ない時にもっとも有効な解決策のようです.

成り年に環状剥皮をしても意味がない!
隔年結果性の強いアボカドの木ですが,成り年に環状剥皮をしても効果が低いことが報告されてます.ただし,オフの年に入る前の秋に環状剥皮を行うことは効果的であると言われます.

オーストラリアの環状剥皮.

1976年のTrochoulias氏らの研究によると,オーストラリアの環状剥皮も3年連続の処理で収量を増加させ,4年目には生産性の増加は見られませんでした.また,秋の環状剥皮ですが,果実サイズは減少し,これは,栽培品種によっては,マーケティング上の利点と見なされてました.

1977年にTomer氏は,環状剥皮後のアボカドの収量の増加を報告しました.
この処理により,花粉管の成長速度が上がることと,胚珠の浸透(受精)が増加し,その結果,果実が大きく成ると報告してます.環状剥皮を施した枝の炭水化物含有量の増加が,その枝上における花の花粉管の成長速度の増加の原因であると考えられています.

南アフリカの報告では!?

南アフリカの涼しくて湿度の高い亜熱帯地域の栽培では環状剥皮はあまり推奨されてないようです.1995年に,Hackney氏らの研究によると,従来の環状剥皮の方法では,葉の白化と,木の健康被害を引き起こし,2年後の収量低下を報告してます.
しかしながら,環状剥皮ではなく,樹皮に傷を入れるスカーリングであれば,収量が大幅に増加したと報告してます.春の処理がもっとも効果的だということです.

より詳しく気になる方は,The Avocadoを読んでみてください!