【熱帯果樹雑談】マンゴスチンって何?タネでクローンで増える面白い果樹.
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けんゆー

こんにちは.けんゆー(@kenyu0501_)です.


けんゆー

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今回は,果物の女王「マンゴスチン」について,色々と紹介していきたい.

動画で解説もしているので,映像を見たい方は,こちらをどうぞ.

1.マンゴスチンのためなら全領土を差し出しても良い

「我が領土に天下第一の美果といわれるマンゴスチンを有しながら,これを味わい得ないのはまことに遺憾である,」

マレー半島を領土にしたイギリスのビクトリア女王(1837~1901)がマンゴスチンを食べて言った一言である.マンゴスチンは,3日程度で完全に美味しくなくなってしまうため,なかなか真の味を口にするのは難しいと言われる.

現在は,クール便があるため,ある程度はどこでも輸送ができるが(それでも採れたてと比較すると雲泥の差らしい),ビクトリア女王の時代は,快速の船をもってしても,シンガポールからロンドンまでは20日を要した.ゆえに食べられなかったと言われている.

どうしても食べたい場合は,果実付きの木ごと船に積んで運んでしまうのかぁ?
(もちろん道中にて枯れる)

ヨーロッパやイギリスで作れないこともないが,気候的な要求だけではなく,温度変化の少ない条件や,土壌にもものすごく制約を受けるため,露地ではほぼほぼ難しい(沖縄でさえ...).そのために,栽培適地が限られてしまう.

また通常は実生で繁殖されるが,成長がものすごく遅く,結実までに10~20年を有すると言われている.ゆえに.結実を目的とした栽培が難しいと言われている果樹の一つだ.

2.マンゴスチンとは!?

マンゴスチンは,フクギ科に属するため,フクギやハママンゴスチンに接ぎ木したら成長が早くなって良いよ!と聞いたことがある人も多いと思われる.ただ,接ぎ木できるかどうか,僕もやったことがないのでわからない.後に説明するが実生でも品質に差はない.実生であれば,僕も庭に置いてあるが,成長は遅めだ.桃栗三年柿八年とかのレベルではないそうだ.

原産はスンダ列島やマレー半島,栽培適地が狭く,主に東南アジアで栽培されるが,沖縄県でも栽培が難しい.

染色体の数は,近年まで分からなかったが,最近研究されたもので一番信頼性が高いと思われるのは「2n=74 ~ 110」と幅があるし,まだ確定的にわかっていない.
(Determination of the chromosome number and genome size of Garcinia mangostana L. via cytogenetics, flow cytometry and k-mer analyses)

ゲノム的にも謎が多い果樹の一つだ.

岩佐氏の図説熱帯の果樹のよると,マンゴスチンは,常緑の小高木の木で,高さが6~9m程度,樹冠は均整のとれた円錐形になるという.熱帯ドリームセンター入口にあるマンゴスチンの木はそれよりも一回り小さくこんもりと作られていたため,管理をうまくやると,よりコンパクトに仕立てられるのかもしれない.

2−1.花の雌雄,アポミクシス.

マンゴスチンは雌雄異株で,オスメスがあるが単為結果をするため,通常はメスの木一本でなる.またオスの木は見つかってないとか見つかったとか,そういった神秘なレベルだ.インドネシアで雄株が見つかったとかそういった話を聞いたこともあるが,定かではない.マレーやタイ,ジャワなどでもメスの木のみの栽培である.また,種子が遺伝的に母樹と同じという性質があり,実生でも品質がバラけない.

京都大学が2010年から300万の研究予算を使い調べた結果,マンゴスチンの種子の形成は,幼果期に子室内の珠皮組織(胚珠の外側にある組織,一般的に,将来,種子を包む種皮になる)というところから,何かしらの細胞塊が出てきて,それが肥大することで種子になることを報告している.(参考研究はこちら
一般的な花粉を使っての受粉や胚形成などではなく,遺伝変異の起こらない分裂・増殖の形態である.クローンだ.無性生殖による種子形成はアポミクシスと呼ぶが,これはとても珍しい.

また,京大の研究によると,種子には胚がなく,成熟した種子を半分に割ると,それぞれから根と芽が出てきて,複数の実生を作ることができると報告している.この結果は,カンキツやマンゴーなどの珠心胚などにみられるアポミクシスとは異なる点で興味深いとされている.

2−2.味はもちろん美味しい「熱帯果樹の女王」!ただ...

僕も一度,3年前のyoutube動画にマンゴスチンの食レポをしている.

YouTube始めたてということもあり,たどたどしいが許していただきたい.

マンゴスチンは,熱帯果樹の女王と呼ばれているほど,美味い.
果肉は柔らかく,多汁で嫌な味がしない.口の中で滑らかに溶ける.甘味も強いがほのかな酸味も感じられとても味わい深いフルーツである.ただ,皮が硬いものもが多く,食べるときには少々注意が必要だ.

沖縄県では,多くのスーパーで購入できると思われる.

沖縄県には,タイ産のマンゴスチンが入ってくる.
2003年に輸入が解禁された.ただ,輸入のマンゴスチンは,ミカンコミバエ種群を殺虫する必要があるため,一度蒸熱消毒(以下,熱処理)をして入れられることとなる.これまで,この消毒が行われたもののみが許可されていたため,実は僕らは,日本で本当に美味しいマンゴスチンを食べられていなかった.

ただこの前,アボカドパーティでも周知させていただいたが,より新鮮な状態(おそらく熱処理されていないもの)が入ってくるとのことだ.

僕も熱処理を経験してないマンゴスチンは食べたことがなく,どのような違いがあるのかが楽しみだ.もしかしたら皮も柔らかく,包丁で指チョンパする危険性も下がるかもしれない.確か,こーりゅーさんが一度指チョンパしてるらしい.

また,熱処理をせずに良いということは,鬱陶しい作業が減るため,より多くの果実が輸出され,価格も多少は下がることを意味する.おそらく,輸出量はかなり大きくなるのではないかなと予想する.現在,タイから輸入されるマンゴスチンは82.4トンであるが,2~3倍,もしくはそれ以上になる可能性も大きいと勝手に予想している.

3.タイのマンゴスチン栽培

日本にマンゴスチンを輸出しているタイも,マンゴスチン大国の一つだ.
京都大学の樋口氏の「タイ南部におけるドリアンとマンゴスチンのオフシーズン生産の現状と技術」という2012年に書かれた論文によると,タイでは,チャンタブリ,ラヨン,トラート,チュンポン,ナコンシータマラートと呼ばれる5県が主にマンゴスチンの栽培に力を入れているところだという.

東部の3県(チャンタブリ,ラヨン,トラート)と南部の2県(チュンポン,ナコンシータマラート)でも,気象条件で収穫時期に差があるという.

東部では11~12月ごろに出蕾,南部では3月ごろに出蕾があるようで,南部の方が若干遅い.
東部では,雨季が5~10月,11月に降雨量が減り乾季に入る.気温も20℃を下回るようになり,このタイミングで出蕾する.
一方,南部では,東部ほど明瞭な雨季乾季はなく,日最低気温も年間20-22℃で推移するという.ただ,11月12月に大雨が降るため,その後,出蕾がされるという.

上の図は,本文献から引用した.
(「タイ南部におけるドリアンとマンゴスチンのオフシーズン生産の現状と技術」)
左が東部で右が南部であるが,雨が降るタイミングなどがずれていることがわかる.

タイでも,雨季にぶつかるとマンゴスチンの障害果の発生や,年間の市場需要を満たしたいということから,収穫時期をずらすような栽培技術が模索されているようで,本文献では,コンパニオンプランツや,窒素,リン酸,カリなどの肥培管理,かん水,剪定などが工夫されていることが紹介されている.
気になる方は,本文献を読んでみても面白いかもしれない.
僕の動画解説の方では,本文献の収穫時期をずらすような栽培技術についても取り上げているので,ぜひご覧いただけたらと思う.