【アボカド栽培44】アボカドの成長と環境の要因について!
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けんゆー

こんにちは.けんゆー(@kenyu0501_)です.


けんゆー

感想ツイートや引用ツイートなど歓迎!

今日は生態生理学(Ecophysiology)について書く.
アボカドの生育と環境の要因だ.
ただ,アボカド以外の果樹にも成り立つ話なので,果樹栽培をしてる人は参考にしてほしい.
今回の記事は,僕が2年前のオンラインサロンに書いた記事をリライトしたものである.
(参考:【No.58】アボカドの光合成の話,生態生理学.温度や光,周囲の環境.落果しないものの特徴.
もし,余裕がある方や,本メディアを応援していただける方,または果樹栽培の科学的なことをもっと探究したい方は,ぜひご入会いただけたらと思う.

生態生理学

アボカドを育てたい場合,その周りの栽培環境は,成長と発達の全ての側面に影響を与える.
特に,日光(放射照度)水ストレスは,植物の成長を発達に大きな影響を与える.

現代の果樹栽培では,多くの場所で栽培がなされる.すなわち,作物が元々進化してきた場所(生育に全く問題のない適地)を超えて,さらに過酷な場所で栽培されることが多いため,環境の要因と植物の発達を調べるのには大きな意味がある.

例えば,温度は,特定の果樹種が商業的に栽培ができるかどうかを決定づけるための大きな要因であり,さらに,この温度によって栽培の可能な範囲が定義される.

また,温度だけではなく,人口増加とそれに伴う環境の変化も,農業生産に大きな影響を与える.
地域によっては,国内の限られた水資源をめぐる問題があったり,地球温暖化の影響や,大気中の二酸化炭素などの問題があったりと,それら要因と作物の生産性に関する研究は未だ不明な部分が多い.

その他にも,大気汚染(例えばオゾンや酸性雨問題など)や,土壌への塩水侵入,また肥料等の蓄積により生じる塩化物毒性,農業に使用できる土地が制限されたりで,作物の生育に対して様々なストレスがかかる環境になっていく可能性もある.(すでになりつつある地域が多い.)

環境問題に関しては,悪くならないよう努力する一方で,環境変数が作物の生産に与える影響を考えることには大きな価値がある.環境に対する作物の生理学的または成長の反応を理解することは,作物の生産性最大化を考える上で必要不可欠なことだ.

アボカドの3つの変種の3つの栽培気候

アボカドは主に3つの異なる気候帯で栽培されている.

1.涼しく,半乾燥で,冬によく雨が降る地域.
(カリフォルニア,チリ,イスラエルなど)

2.湿度が高く,亜熱帯で,夏によく雨が降る地域.
(オーストラリア東部,メキシコ,南アフリカ,日本など)

3.熱帯または半熱帯で,夏によく雨が降る地域.
(ブラジル,フロリダ,インドネシア)

けんゆー

沖縄県は,2に属するが若干3の気質もあるね!

そして,アボカドも品種の生態学的特徴に基づき,3つの系統に分けられる.
(学名を同時に記載している.)

1.メキシコ系(P.americana var. drymifolia).
2.グアテマラ系(P.americana var. guatemalensis).
3.西インド諸島系 (P.americana var. americana).

これら3つの系統は,環境への適応性に関して,明確な違いがあるが,各系統内の栽培品種は,一般的に土壌条件や気候条件に関しては同様の反応を示すことが多い.

また,系統を超えた交雑は自由に起こるため,その結果,種の遺伝的多様性と環境適応へ不確かさが増加していると考えられている.

そのため,アボカドの生物季節学や,成長習慣,生態学を理解することは,環境要因に対する種の生理学的反応を解釈するためにも必要不可欠だ.
(生物季節学:植物の発芽・開花・落葉など,生物の活動周期と季節との関係を研究する分野.)

今回は,アボカドの生態生理学に焦点を当てて,光や温度,水,塩分,二酸化炭素,汚染などの環境変数と,アボカドの生理学,成長,発達にどのような影響を与えるのかを考える.

まずは,葉の発達,光合成と光,そして温度に関して考えていく.

葉の年齢と発達生理.

葉の出現から老化へ,そしてシンク葉からソース葉への移り変わりなど,様々な形態学的段階を経て移行するにつれて,樹木への炭素寄与は,環境変数への応答と同様に変化する.

シンクというのは,栄養を供給される側の葉(葉緑体が発達してない状態).
ソースとは,光合成ができ,栄養を他の組織へ供給できる状態だ.

アボカドの葉の寿命は12ヶ月〜18ヶ月と言われている.
アボカドの葉は,芽が出てから20~24日後にソース葉となり,光合成による炭素生成を行う(シンク期間:20日程度).

しかし,その光合成(炭素生産)の最大量は,芽吹き後,40~70日という研究結果がある.
(本記事は,The Avocado botany, production and usesを参考に執筆してる)
暗呼吸(光合成組織において,光合成が停止する暗黒条件で測定される呼吸)は,芽が出てから約40日後まで減少し,そこから横ばいになる.成熟したアボカドの葉は,葉の背軸側(裏側)にのみ気孔がある.そして,ガス交換は葉の表面では効果的に起こらない.

アボカド鉢植え栽培の光合成効率について

光合成は,果実の生成や自身の木の成長などで必要であるため,光合成能力はできるだけ高い方が良い.
ただ,根域制限をかけると,光合成能力が落ちるということが分かっている.
現在のところ,鉢植え栽培よりも露地植え栽培の方が,光合成能力が高いということが示唆されており,また,露地栽培でも,硬い石灰岩が多く含まれる土壌では,光合成能力が落ちるということが知られている.

木の根が厳しく制限されると,葉にデンプンが蓄積され,光合成が阻害されると考えられている.
根域制限によって,木が大きくならないという原因の一つは,光合成阻害も考えられる.

オーストラリアでは1994年に,Whiley氏がアボカドの葉の光合成能力について調査した研究がある.
その時報告された露地アボカドの光合成速度は,23μmol CO_2/(m^2s)で最大であった.
これは当時の鉢植え栽培で報告されている他の研究結果(7μmol CO_2/(m^2s))よりも高い結果である.
(詳しくはThe Avocado botany, production and usesを読んでね!)

根域制限をすると,葉にでんぷんが蓄積し,光合成能力が落ちるというのは,多くの植物で同様のようで,キャベツなどもそのようになることが報告されている.
(論文:根域制限がキャベツ苗の生育と炭水化物の動態に及ぼす影響

アボカドのハスでも,葉のでんぷん蓄積量が増えると,光合成能力が下がるという研究結果もある.
(「The Avocado」本書170ページの図引用して加筆)

上の図は,鉢植え栽培の「ハス」アボカドの木の実験結果である.
つまり,鉢植え栽培などのような根域が狭い場合,強い光は逆に生育を弱める可能性がある.
鉢のまま,外に放り投げたりするとそのアボカドだけ枯れていくのは,もしかすると,強すぎる光による影響なのかもしれない.鉢植え栽培などでは,適度な遮光とセットで楽しんでいただきたい.

根域制限も大事な栽培テクニックですが,何が起こっているのかを知るのも大事なことだ.
もちろん,上手にやれば魅力的な栽培方法である.

光の復習

光合成に最大の影響を与えるのが,太陽光(光)だ.
植物は強い光を与えたからといって必ずしも良質な光合成を行うわけではなく,適切な波長帯域と,適切な光強度が必要である.また,成長過程や状態によって,光の与え方は常に変わってくる.

植物学の世界では,光に対する光合成応答の数値を図る際には,PAR(光合成有効照射)もしくはPPFD(光合成光量子束密度)というものが大事だ.

PAR(光合成有効照射)

400nm~700nmの分光範囲の放射量.

(画像引用「光合成とLEDの考察」)

PARは,植物が光合成に有効な光の波長領域であるが,人間の可視光とほとんど変わらない.
ざっくりと,光合成は赤に関して高感度,青に関して低感度であるということが分かる.

PPFD(光合成光量子束密度)

PARにおいて,1秒ごとに1平方メートルあたりの対象領域に降り注ぐ光子の数.
単位は(μmol/(m^2・s)).PPFと表記されることもある.

夏の正午,低緯度から中緯度までの日中太陽の下のPPFDは約2000だ.

例えば,岐阜県だと,夏の正午はPPFDが2000程度まで上がる.
(参考論文「岐阜における昼光の分光光量子束の日および年変化」)

(画像は論文より引用してます.)

岐阜県では,夏の正午は2000程度までPPFDは上がるが,冬になると光子量は下がる.

アボカドの光合成能力とPPFD

さて,アボカドの光合成能力とPPFDであるが,The Avocadoに記載されているものは以下.

縦軸は,光合成能力,横軸は光子量のPPFDである.
図はPPF(光合成有効光量子束)になっているが,単位はPPFDの光合成有効光量子束密度になっているため,後者であると思われる.
(具体的な違いを知りたい方はこちらの論文をどうぞ「植物工場研究に関する用語と単位」)
PPFDの増加に伴って,光合成能力は上がるが,PPFDが2000付近で飽和している.

この飽和する理由であるが,葉っぱが生い茂り,重なり合い,一部が日陰になるため,全体として見た時に,光合成能力がそれ以上上がらなくなるということが考えられる.

けんゆー

剪定って大事だね!


以前,果樹栽培講座でもやったが,過繁茂状態だと,見かけ状の光合成は低下することを報告したが,本研究でもそれを示しているものだと考えられる.まだ,果樹栽培講座を見ていない方は,以下の動画をどうぞ.
【果樹栽培講座②-1】初心者のための栽培基礎知識,果樹の一生,光合成をとことん理解する【栄養成長と生殖成長】

1500以上だと,そこそこ良さそうなので,光合成に関しては,岐阜でもギリギリな感じがある.
アボカド栽培に関しては北限だ.秋(Autumn)と冬(Winter)を調べているが,やはり冬は光合成能力が減っている.温度の関係も密接に関わっている.この時,秋Autumnは最低温度14℃,冬の最高気温は10℃であった.

温度の関係

温度と光合成の関係もいくつかの研究で明らかになっており,十分光合成能力を高められる温度は20~30℃である.

この温度範囲は,多くの植物で最適な範囲だ.
この範囲外だと,光合成能力は落ちる.
過ぎたるは及ばざる如し,つまり,高すぎる(多すぎる)のは,低すぎる(少なすぎる)のと同じくらい良くない.

上のグラフも「The Avocado」本書P.174からの引用であるが,温度が低い冬の場合だと,PPFDが上がっても光合成能力が上がりにくいことを示している.

さらに本書では,10℃未満の温度に短期的に晒されると,すぐに枯れ込む心配はないが,低温障害を引き起こし,光合成が阻害される可能性を示唆している.

僕らの沖縄の園地でも,この冬の寒波(最低気温8℃)で,以下のような状態になった.
これは,西インド諸島系の品種である.

西インド諸島系の品種は,0℃まで耐えられると言われているが,耐えられるだけで,10℃未満になると葉に異変が見られ,最悪枯れ始め,光合成ができなくなってしまう可能性が大きいと考える.

アボカドの成長と発達に対する温度の影響は,品種によっても多少異なることが知られている.
例えば,フェルテとハスのアボカドの木の成長および乾物蓄積(果実の大きさと考えても良い)で,最も最適な温度幅はそれぞれ21/14℃,33/26℃(昼/夜)に保たれた時だと報告されている.
(耐寒性は耐えられるという温度で,最適な温度ではない)

しかし,ハスの場合は環境適応性が高く,最適温度外の低温および高温の影響を受けにくいと言われている.
これが,多くの地域でハス種が,商業的な栽培で有利な点であると考えられる.

温度と花の関係.

アボカドは,開花中の温度にものすごく敏感である.アボカドは,雌雄異熟性を持っており,雄しべと雌しべが別々に機能する性質がある.しかし,適温から外れてしまうと,この開花のメカニズムがひどく混乱してしまうと言われている.以下にアボカドの開花のメカニズムを示す.

アボカドは,花の咲き方によって,AタイプとBタイプがあるが,一般的にAタイプの花をもつ品種は,Bタイプをもつ品種よりも低温及び高温に順応すると言われている.(つまり,Bタイプの方が温度による狂い咲きが激しいということだ.)

現在,日本ではアボカドが開花してるところが多いと思うが,いくつか狂い咲きも見られると思う.
このような狂い咲きは,温度による影響も大きく,いくつか,自分のところでも調査せれたらと思う.
瞬間的には,雄ステージと雌ステージが両方同時に存在するという場合も大いにある.

さて,今回はここまで.
このような感じで,毎週オンラインサロンに,論文などから引用して学術的な内容を紹介している.
今回は,2021年4月9日の2年前の記事を加筆修正したものである.
【No.58】アボカドの光合成の話,生態生理学.温度や光,周囲の環境.落果しないものの特徴.
2023年4月現在,記事数は164記事であり,過去の記事は現在全て見られる.
ぜひ,サロンメンバーになって読んでいただきたい.今のところ,月額500円になっているので,ぜひこの機会にどうぞ.