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こんにちは.けんゆー(@kenyu0501_)です.
感想ツイートや引用ツイートなど歓迎!
今回は「植物炭疽病」についてまとめたスライドを作ったので共有しておく.
炭疽病ってどのような病気なんだろうと思っている方とか,勉強したい方には役に立つと思う.
また,学術論文を参考に,作物別の炭疽病の特徴や対策つにいても触れた.
炭疽病は,宿主特異性(host specificity:寄生生活を行う生物などが,特定の生物のみを宿主とする性質)があり,効きやすい農薬や症状なども違ってくる.
ポストハーベストが問題になったり,栽培上問題になったりする.
この辺りもざっと紹介するので,勉強になると幸いだ.
炭疽病 Anthracnose
動画での解説
細かい説明などを加えるために,動画での解説も行った.
ぜひ,映像で見たい方は,どうぞ.
スライド文字が潰れて見えない方用
■炭疽病の基本的理解
・炭疽(Anthrax = ギリシャ語で「黒」,炭疽症状 : Anthracnose )
・糸状菌 Glomerella属(有性時代)Colletotrichum属(無性時代). (両属菌以外も存在する)
・果樹,野菜,花き,芝生,広範囲の植物に発生.
・潜在感染により,ポストハーベスト(流通・市場)病害
■Colletotrichum属意外の炭疽病
・サボテン炭疽病:Microdochium lunatum
・スズカケノキ炭疽病:Discula platani
■炭疽病の発生の特徴
・生育適温 25℃前後.
・春から秋にかけて発生が多い.
・雨滴伝搬,梅雨,長雨,頭上灌水で伝染.
・台風や強風を伴う降雨.
・ウリ科,アブラナ科などの品目で種子伝染.
・テンサイでは,花が感染してると種子も!
・セロリでも種子についてると発病.
(50℃,30分の温湯(おんとう)処理)
■炭疽病の発生の特徴
・葉,茎,果実など広範囲に発生.
・果実や茎などの病斑部に窪みができる.
・同心円状の輪紋.
・高湿度条件下では病斑部にサーモンピンク色の分生子塊を形成.
・前年の被害残渣で越冬,翌年の伝染源に.
■炭疽病の宿主
・宿主植物 約320種
→広葉樹96種,草花81種,野菜41種,果樹38種,
特用作物24種,食用作物13種.
・これら宿主植物のうち70種以上が複数種の炭疽病菌にやられる. (炭疽病菌による病害の発生生態と防除,平山他,植物防除講座)
■炭疽病の発生状況
・2016年,2017年の平均
・イチゴが611ha,カキが2366ha,キュウリ706ha
・栽培面積の1割ほど炭疽病が発生.
■潜在感染
・バナナの追熟:C. musae
→皮の一部が黒変し,オレンジ(サーモンピンク)色の粘塊
・ポストハーベスト問題
・風味・食味ともに劣化.
■イチゴ:C. gloeosporioides,C. acutatum
・現在栽培される多くの主要品種が罹病性.
・発育期での発病多く,6月上旬頃発生,育苗後期に最も多くなる.
・感染した苗はほとんど枯れる.
・葉,葉柄,ランナー,クラウンなどで発生.
・感染初期:うす墨色の直径2~3mmの丸い斑点病斑.
・ランナーや葉柄も折損.
・栄養繁殖だと,潜在感染した親から移る.
・晩秋以降は無病徴となり,健全株と見分けがつかない.
・汚染残渣が通路にあると感染,ベンチアップ効果あり.
・土壌中では数日間しか生きない.
・土壌中に埋設したイチゴのクラウン内では5ヶ月生存.
■ナス科野菜類:C.coccoses
・黒点根腐病:例外的に根が褐色して腐敗.細根が脱落.
■ウリ類:C.orbiculare
・露地栽培,梅雨や秋雨などの時期に多発.
・淡褐色の斑点性病斑 → 大型化していく.
・キュウリなど葉に穴が開くこともある.
・スイカでは,果実の被害が大きい.
・円形のくぼんだ斑点,その後褐色〜暗褐色に.
・高湿度では,サーモンピンク色の分生子塊.
■ブドウ:C. gloeosporioides,C. acutatum
・晩腐病 (おそぐされ病)と呼ばる.
・熟果では淡褐色の小斑点.
・急速に広がって果粒全体を腐敗.
・シワが生じてミイラのような果実に.
・結果母枝や巻きひげが翌年の伝染源になる.
■ナシ:Colletotrichum属
・2000年頃から多発.
・果実よりも葉で多い.
・葉に斑点,その後黄変.
・病原菌の二種は,品種特異的に発生.
■カキ:C. gloeosporioides
・5~7月の多雨により結果枝や徒長枝で発病が多い.
・8月下旬〜10月上旬の多雨が果実の発病を助長.
・果実:黒色の円形〜不整形の病斑.
・枝,芽などで越冬し,翌年の伝染源になる.
・冬季の剪定した部分は,園外持ち出し処分.
■マンゴー:C. gloeosporioides,C. acutatum
・剪定残渣が多い場所で発病が多い.
・25℃では150日,10℃では300日以上,長期間生存.
■他,栽培品目,リンゴやモモなども
・リンゴやモモは,ニセアカシア炭疽病と同一.隣接圃場では多発.
・コマツナ炭疽病は,スベリヒユ,ホトケノザなどが伝染源に.
■発生予察調査
・野菜:イチゴ,スイカ,キュウリ
・果樹:ブドウ,カキ,モモ,クリ
→ 病害虫発生注意報を発表する際の参考になる.
→ 薬剤防除の要否や種類,回数などの決定に利用.
・イチゴの被害は年間35億,薬剤費5億円.
・イチゴ:エタノール浸漬簡易診断法,エタノール噴霧法.
→6~7月の調査,その後の発病度と高い相関がある.
・ブドウ晩腐病:
→結果母枝における越冬菌密度,幼果期の発病調査.
■防除対策
・伝染源の徹底除去
・支柱や用具の消毒.
・降雨を防ぐ,底面吸水,株元灌水,点滴灌水.
・マルチなどを敷いて水はねを抑制.
・輪作をする. ・多肥を避ける.
・樹高が高い果樹類は,暴風雨によって
分生子が遠くまで飛散する.
■参考にした文献
・炭疽病菌による病害の発生生態と防除,平山喜彦他,植物防除,第73巻第4号 (2019)
http://www.jppn.ne.jp/jpp/s_mokuji/20190410.pdf
・第6回 植物炭疽病(1),佐藤豊三他,Microbiol. Cult. Coll. 2(51):27 32 (2009)
http://www.jsmrs.jp/journal/No25_1/No25_1_27.pdf
・ETIOLOGY AND EPIDEMIOLOGY OF DISEASES CAUSED BY Colletotrichum spp. IN PERSIMMON, APPLE, PEACH, AND GRAPEVINE, Thiago de Aguiar Carraro et al., RAPP, vol.8 136- 162 (2022)
https://sbfitopatologia.org.br/admin/files/papers/file_sBAW8sNBqKuz.pdf
・Identification of Colletotrichum acutatum and Screening of Antagonistic Bacteria Isolated from Strawberry in Chiang Mai, Thailand, International Journal of Agricultural Technology, vol.12, 4, 693-706 (2016)
http://ijat-aatsea.com/pdf/v12_n4_16_July/12_IJAT_12(4)_2016%20-%20Angsana%20CMU%20-%20Plant%20Pathology%20x.pdf
・Colletotrichum species associated with anthracnose of Pyrus spp. in China, Molecular Phylogeny and Evolution of Fungi, 42, 1-35 (2019)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6712541/
・Morphological, Pathological and Genetic Diversity of the Colletotrichum Species, Pathogenic on Solanaceous Vegetable Crops in Bulgaria,J. Fungi, 8, 1123 (2022)
https://www.mdpi.com/2309-608X/8/11/1123
参考になったら幸いだ.