【書籍レビュー】葉っぱはなぜこんな形なのか?を読んでみて!
この記事のポイント
  • 葉っぱの形を見ると,自然や生態系のバランスが理解できる.
  • 寒い地域になると,ギザギザしい葉っぱが増える.
  • ギザギザしい葉っぱは光合成効率やその他多くの効果がある.

けんゆー

ハイサーイ!


こんにちは.けんゆー(@kenyu0501_)です.

今回は「葉っぱはなぜこんな形なのか?」という本を読みまして,この本があまりにも面白かったので,レビュー記事です.
著者は,林将之(はやし まさゆき)さん,千葉大学園芸学部のご出身で,現在は沖縄県にお住まい,そして山口県のお生まれということで,非常に親近感が湧いております.僕の出身は沖縄県なんですけれども,現在,山口大学の博士課程でして,山口県に9年間おりましたね.

この著者の林さん,樹木の図鑑を作られている方で,15年間,毎年1冊のペースで作り続けているから驚きですよね.
これまで集めた葉っぱの枚数は10万枚をゆうに越えているようです.

さて,今回お話しする内容はですね,本書の中で僕がグサっと心打たれた内容を少し抜粋させていただき,お話をしたいなと思います.
植物の葉っぱというものは,それぞれ姿形が違うのでありますが,これが,言わば自然を写しているもので,ここに気がつけば,自然の摂理や生態系の絶妙なバランスに気がつく可能性があるとおっしゃっております.

ギザギザ VS マルマル

葉っぱがなぜこのような形をしているのか?という問いに入っていきたいと思います.

では,現在観測されている樹木において,葉っぱの縁にギザギザのあるものと,ギザギザのないマルマルしいもの,どちらが多いかご存知でしょうか.
縁にギザギザのある葉は,鋸歯縁(きょしえん)といい,鋸歯縁がない葉を全縁(ぜんえん)と呼びます.
僕も,鋸歯縁の葉っぱが多いのか,前縁の葉っぱが多いのか,なんてこれまで考えたことがなかったのですが,これがまた面白いのです.

針葉樹は,葉が小さくて,ギザギザの判別が不明瞭なため,広葉樹(葉っぱが広いタイプ)のもの,227種のうち,なんと,64%が鋸歯縁だったのですよね.
つまり,日本に分布する広葉樹のうち,3分の2は,葉っぱがギザギザしているというわけなのです.

しかし,常緑の広葉樹136種,暖かい地域に多く存在する葉っぱが落ちない樹木に限って見ると,なんと,58%が全縁の,マルマルしい樹木だったのですよね.
沖縄も暑い地域なので,常緑樹は,6割近くがマルマルしい葉っぱの木なのです.

これ凄く面白くて,全縁の葉っぱと気温というのは,非常に深い関係があって,実は,平均気温が高い地域ほど,全縁の葉を持つ植物の割合が増える!というのです.
そして,この事実はなんと,40年前の研究ですでに知られていたと言います.

例えば,沖縄(平均気温が大体22℃)であれば,62%が全縁,マルマルしい樹木です.
四国(平均気温が12℃)であれば,37%が全縁,つまり,63%はギザギザの葉っぱ,鋸歯縁です!
北海道(平均気温8%)は,24.6%が全縁,つまり,だいたい80%くらいがギザギザしい葉っぱです.
北海道は,ほとんど葉っぱがギザギザしております.

つまり,「全縁率が3%上がれば,平均気温が1℃上がる」,「全縁の葉が45%なら,平均気温は15℃」というわけです.

でこの発見が何に使えるのかというと,昔の地球の気温が推定できると言います.

植物の化石を見て,葉っぱのギザギザを見て,その時の,地球の場所の気温が推定できると言います.

これは,化石界の世界では,常識とされているもので,実際に,年間平均気温の算出には非常にシンプルな方程式があります.

年間平均気温 = 0.306×全縁率+1.141

これで出てくるようです.これは,1993年のWingさんらの論文に掲載されたものです.
太古の地球は,このくらいの気温だった,とか,しばしば言われることがあると思いますが,ずっと「あれ,なんでかな!?」と思っておりました.
ようやく,謎が解けました.

なぜ寒い地域では,鋸歯縁が多いのか!?

本書では,なぜ,寒い地域では,鋸歯縁が多いのか,という確定的な理由は述べられていないものの,いくつかヒントになるような記述は見られました.
というのも,真実はまだ明らかになっていないようですね.

寒い地域の広葉樹は,冬になると葉っぱが落ちるので,葉っぱが木の上についているときに,光合成の効率を高めるために,葉っぱの形を変えたのではないか,という考察がなされておりました.
暖かい地域では,葉っぱが落ちず,年間を通して光合成ができるため,シンプルな形状になっているのではないか,ということが書かれておりました.

では,なぜ,キザギザの葉っぱが光合成に有利なのか,とか,光合成以外でも,何の為にギザギザした形になっているのか,ということについてご紹介していきたいと思います.

ギザギザの葉(鋸歯縁)の理由

葉の縁がギザギザしている鋸歯縁の葉っぱですが,その理由について以下の理由があります.

  • 草食動物から身を守るため.
  • 光合成効率の向上.
  • 水分を排出する機能.

草食動物から身を守るため.

疼(ひいら)ぐという動詞があります.ヤマイダレに冬という漢字を書きますが,この動詞の意味は「ヒリヒリして痛い」という意味です.
この動詞から名前が付けられたヒイラギというモクセイ科の樹木があります.

このヒイラギは葉っぱの縁に鋭い針のような鋸歯を持ち,これに刺さるとヒリヒリと痛むことからヒイラギと呼ばれるようになりました.
実は,このヒイラギ,樹木なので背丈が高くなりますが,2m程度の高さをこえた所につく葉っぱには,ほとんど棘がないのですね.葉っぱが丸くなるのです.

つまり,シカやウサギなどの草食動物が届かない高さになると,棘が少なくなるのですね.
シカや草食動物が多い森に行くと,ヒイラギの葉っぱにはトゲが多いのです.
ヒイラギ以外にも,本書で紹介されているのは,カナメモチ類,タラヨウ(ノコギリシバ),モチノキ,リンボクなどにも当てはまるといいます.

このように,葉っぱの鋸歯というのは,自身の身を守る防衛機能もあるのですが,そのような形状の多い山や森には,草食動物がたくさん周りにいることを示しているという見方もできるのですね.

光合成効果の向上

光合成に必要なものは,主に光と二酸化炭素です.
実は,葉っぱの鋸歯縁には,光合成効率を上げる役割があると考えられております.

その理屈は,鋸歯縁のギザギザが,葉の周りを流れる空気の層を変化させるというものです.
葉の表面付近の空気の流れを向上させ,それによって気孔が二酸化炭素を取り込みやすくしているということです.

というのも,滑らかで大きなツルッとしている葉っぱでは,葉っぱ周りの気流が穏やかで,層流という流れになります.
層流というのは,規則的な流れで,流線が安定している流れですね.
このような流れだと,二酸化炭素の拡散がないので,CO2の取り込みがあまりうまくいきません.
なので,そのような滑らかでツルッとしている葉っぱの裏側には,毛状体が多いですね.
これは,空気の層に変化をつけて,CO2を取り込むための仕組みだと言われております.

パパイヤとか,パンノキとか,葉っぱが丸っぽくなく,指が生えているような形をしている葉っぱがあるのですが,あれもそうですね.
葉っぱ周りの気流の流れの変化を起こし,一枚一枚の葉っぱの光合成能力を最大限発揮しております.

パパイヤやパンノキは,鋸歯というよりは,葉っぱそのものの形といっても良いかもしれないですね.
大きな切れ込みのあるような葉っぱで有名なものはクワですね.

クワの葉には鋸歯縁もありますが,3つに分裂しているような切れ込みが入っておりますね.
実は,あの葉っぱ,5mを超える大きな木になれば,分裂しない丸い葉っぱが増えます.

逆に1m以下の小さな木になる葉っぱは,分裂が激しく,丸とは程遠いほど,深く複雑な,そしていびつな分裂をしている葉っぱが多く見られます.
これも木が小さい時に,葉っぱの形を複雑にしておいた方がメリットが大きいのですね.
本書で紹介されているのは,以下です.

  • 重なり合う葉っぱの下の方にも光が入る.
  • 葉の周囲の空気の層に変化を起こす.
  • 強風で葉が破れるのを防ぐために,切り込みで風を逃す.

このようになっているのですね.納得です.
幼い木,幼木(ようぼく)で切り込みが強い葉っぱは,カクレミノやカジノキ,アブラギリ,ウリカエデ,キイチゴやブドウなど,本書で多くの種類が紹介されていましたが,代表的なものを抜粋しております.

また,バナナやバショウなどの葉っぱも,元々は,大きな一枚の葉っぱですが,強風で転倒を防ぐため,風圧をもろに受けないように,葉っぱが裂けるようになっていますよね.風を逃すというのも,構造上大事な役割だったりするのですよね.

水分の排出.溢液(いつえき)

また,最後に鋸歯縁の効果に戻りますが,ギザギザの葉っぱ,鋸歯の先端に水孔と呼ばれる穴があるようで,そこから水が出てくるようなのです.
一般的に,植物というのは,葉っぱの裏側に気孔といって,酸素や二酸化炭素の出入り口があります.
気孔は状況に合わせて開閉する仕組みになっていて,基本,昼間は光合成を行うために空いております.
また,自身の体内の水分量が過多になった場合などは,その気孔を使って水分の蒸散を行なっております.

しかし,気孔は夜間になると閉じます.
そのため,夜間に水分を余剰に吸収しすぎた際に,水孔を活用して,身体の中の水分を排出しているのですね.
こちらの本によると,ミネラルや農薬などの成分も含まれることもあるとのことで,どうやら,植物というのは,余剰な栄養素を自ら排出する機能を持っているのかもしれないですね.もしくは,人間や動物などと同じく,不要な老廃物などを排出して,リフレッシュをしているのではないかと考えられるのです.

また,これは,湿地などの水が豊富な環境に生育する植物でおこりやすいとのことから,その植物がどのような環境で育っているのか,というのが分かることになります.

はい!ということで,本日のお話はここまで,ギザギザの葉っぱがなぜ光合成に有利なのかや,その他の役割についてお話をさせていただきました.
散歩中にである草木,葉っぱの姿を見た時にでも,今回のお話を思い出していただければ幸いです!